メディア・報道

現代日本のメディア報道の惨状

大事な情報が国民に知らされていない・・・

堤未果著『日本が売られる』を読むことで、今まで以上に日本の政治が国民のためになされていないことがわかった。

確かにこの本を読んだりその他の国民不在の政治を告発する情報について触れることで、今の日本が置かれている状況を知る人は多い。かく言う私もそうだ。

しかし大多数の人は無関心、というかそもそも日本の水や種子や労働や卸売市場や学校や病院等々の国民の共有財産が海外のグローバル企業に売られて日本国民が不利益を被るような未来がすぐそこまで来ているということに気付いていない。

またこれとは別の話だが、『日本が売られる』同様ベストセラーになっている矢部宏治著『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』に書かれているような日本の主権も憲法も無力にしてしまうような日本と米国の密約の話なども、この本やこの本に関連するここ数年に出たいくつかの書物を読んだ人でないと知りようもない。

つまり不合理で危険な今の日本の社会や政治の状況に誰かが注意を喚起し、こういった書物に書かれている情報を拡散し、国民を啓蒙していく役割を担う存在が必要となるわけだ。

 

必要な情報を伝えないメディア

しかし昨今のメディア環境は国民の生活を激変させる上に掲げた書物に書かれてあるような政策や政治システム、法律などの重要事項はおろか、監視を怠ったらいつ暴走するかわからない政治権力についての基本的な情報すら流さなくなっている。

とりわけ3.11以降、メディアは目に見えて国民が知るべき情報を流さなくなっている。

例えばモリカケ。一昔前だったら首相夫人が自分と懇意にしている組織(森友学園)に便宜を図ったり、首相の知人の経営する組織(加計学園)が不自然に優遇され多額の税金(補助金)がそこに流れたりしたら、連日メディアはこれを報道し、きっと首相は退陣に追い込まれ内閣は倒れたことだろう。

しかし一時は騒がれたモリカケの問題も、国民の資産が不当に安く払い下げられ、多額の税金が不透明な使われ方をしているにも関わらず、いつの間にか報道されることは少なくなり、やれ横綱が他の力士を殴ったとか、ラクビーの反則タックルがどうとか、ボクシングの協会トップが審判に圧力をかけたとか、そんなワイドショーでやってればよいニュースを民放だけでなく公共放送たるNHKまでトップ級のニュースとして伝えてしまい、本当に知られるべき国民の生活や生命にかかわる情報でもろくに報道されなくなってしまっている状況だ。

特に安倍政権になってからは、不思議なことに国会で重要な法案が通った日に別の″重要な″ニュースが発生し、それがトップで報道されたりもする。

例えば昨年7月6日にオム真理教の松本智津夫被告ら7名の死刑執行のニュースが騒がしく報道されたが、その日は水道の運営を民間業者に委託できるようにする水道法改正案の採決が衆院本会議で可決された日でもあった。

水道民営化による水道料金の高騰などの問題は海外でこれまで多発してきたわけで、国民の命にも関わるこの重要な決定を事前に、またこのオウム幹部の死刑執行がなされた日に報道した新聞・TVはどのくらいあっただろうか。

ちなみにこの日の前日に西日本豪雨による災害の危険が迫っている真っ只中に安倍首相を含む自民党議員が「赤坂自民亭」と称する宴会を開いて批判を浴びていたが、その不手際についてもこの死刑執行のニュースでほぼかき消されてしまった。

この死刑執行が何故あのタイミングで、そしてどういう意図でなされたのかは分からないが、少なくともメディアがこのニュースを優先してとりあげたことで、水道の民間委託という国民の生活を根底から変えてしまいかねない事態に道を開く重要な法案改正については報道されず、豪雨災害が危惧された時の首相をはじめとする自民党議員の危機意識のなさは大多数の国民には露呈されないまま時が流れてしまっているわけだ。

 

民主主義国としてのメディアの存在意義を歪めるもの

TVメディアが「放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図る」(放送法第1条)という目的のためにあり、「番組編集についての通則として、何人からも干渉・規律されない」(第3条)ものだとするなら、TVは政府や政権与党に忖度せず、堂々と国民にとって重要なニュースを流すべきである。

ところが周知のように昨今の報道は必要な情報を流さないだけでなく、自ら政府や政権与党に配慮した忖度報道ばかりが目に付く。

どういう不祥事が持ち上がろうが、国民に不利益になるような法案がろくな審議もなされずに採決されようが、政権与党は批判されず、安倍政権がやることなすこと全て上手くいっているかのように発言する自称ジャーナリストや芸能人もTVにはさかんに登場する。

そして政権に都合の悪い情報をながそうとする身内には圧力をかけ、国民にとって必要な情報を流させないようにすらする。

先にNHKを退職した元NHK記者で大阪日日新聞の論説委員・相澤冬樹氏は森友疑惑を取材し、いくつものスクープを連発したということだが、報道によるとNHKはこの政権側にとって‶不都合”な記者を記者職から外し、「考査室」という定年間際の社員が行くような窓際部署に異動を命じたという(ソース:日刊現代)。

以上はメディア側の忖度の例だが、そもそもこのようにメディア側が忖度報道や忖度人事をするようになったのも3.11以後に政権側からのメディアに対する干渉が増えたということがその原因だろう。

例えば安倍政権は2014年衆院選の際、萩生田光一自民党筆頭副幹事長(当時)の名で在京キー局に「圧力」とも言える要求文書を送りつけているが、これなどは「政治的に公平」(放送法第4条準則)を都合よく解釈したあからさまな報道の自由に対する介入だ。

こんなことをやっている政権というのは少なくとも戦後の日本にはこれまでなかったのではないか?

言うまでもないことだが、TVや新聞が国の税金の使い道や重要法案の内容や成立過程、政権側の政策について詳らかに分かり易く、そして毎日十分な量報道してくれない限り、国民はそうしたことを自ら知ろうとすることは容易ではない。

そうした重要事項を日々のニュースの中から取捨選択するにはあまりにも余計なニュースがメディアには多過ぎる。

しかしそうしたことを知らないと民主主義国家の主権者として国民は何が自分たちの暮らしにとって重要なことなのか、そして今なされている政策決定や審議されている法案が正しいものなのかどうか、判断する術を失う。

このような国民にとっての重要事項が正しく報道され人口に膾炙されない仕組みとしては、記者クラブによる政権由来のニュースの横並び報道や自主規制、広告代理店や大手スポンサーからのTVや新聞への圧力なども存在しているわけだが、3.11以降はこれに加えて上述のような政権側からの干渉とメディアの忖度が顕著になってしまった感がある。

しかしこうした民主主義国としての国民の判断を歪める仕組みは今後改善される必要がある。

 

 

 

 

 

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