読書

日本人が行き着く先の未来なのか・・・北野慶著『亡国記』を読了。

近未来の日本。

どこにでもいそうな幸せな家族が原発事故を機に一変。

母親は事故に巻き込まれ、生き残った小学生の娘と父親は放射能汚染を避けて京都から福岡、韓国、中国、リトアニア、ポーランド、イギリス、カナダ、、、と安住の地を求めて旅をする。

その過程で親子は様々な苦難を重ねるが、旅先で出会う協力者の助けもあって、比較的平坦に旅を重ねていく。

時折母のことを思い出して涙するが、旅先でも気丈に明るく振舞いながら、友達を作り英語力を向上させつつ成長していく娘の陽向の強さに救われながら、私はこのデストピア小説を読んだ。

この『亡国記』が出版されたのが2015年で舞台設定は2年後の2017年。

しかし設定がどうであれ、これが近未来の日本の物語であることには変わりはない。

物語の出発点となる日本で起こった原発事故で3000万人の日本人が死亡し、さらに3000万人が放射線の急性障害で苦しみ、健康な日本人のうち北海道に3000万人、九州に2000万人は留まり、残り1000万人が海外に難民となって避難するという設定だ。

2011年に起こった福島第一原子力発電所の事故でも、危うく東日本全体で人が住めなくなる寸前だったという話を聞く。

幸いフクイチ後の約10年間、2020年7月現在までまだ日本での二度目の過酷な原発事故は起きてないわけだが、地震国の日本でこの小説のようなことがいつ起きてもおかしくないだろう(そもそもフクイチだってまだ収束していない)。

原発事故は事故が起こった地域周辺だけでなく、その規模によっては世界的な汚染が起こりうるが、小説の中で起こった事態はまさにそういうレベルのものだ。

当然ながら難民となった日本人がどこででも歓迎されるわけではない。

ある国で鉱山労働者として働くことになった父の大輝は、ある時同僚から「放射能で世界中に被害を与えた」日本人の生き残りがこの国に来て仕事も奪おうとしているといいがかりをつけられ、「ジャップ」と罵られながら殴られ、娘も学校で差別を受ける。

この小説ではそんなに都合よくいくのかというぐらいこの親子の行く先々で協力者が現れるのだが、この場面に関しては実際こんなことで世界中に日本人難民が散らばったらそうなるだろうと思わされる。

この親子以外にも、万景峰号で北朝鮮に移住する家族の話や、大量の難民を受け入れることになるロシアへ移住する大輝の兄の話が描かれる。

事故後の世界では、九州が中国、本州と四国をアメリカ、北海道をロシアが占領し、まさに日本という国は滅亡してしまう。

首相をはじめとする事故当時の日本政府関係者は裁判にかけられ責任を問われる。

ラスト近く、あの人がモデルとなっているであろう岸辺首相は法廷で「わが大日本国、万歳!」と叫んで失笑を買う。

札幌で臨時首都を設置して「具体性のない決意表明」をやる首相は、3000万人も国民が亡くなっているにも関わらずこの大事故の責任を取るどころか「痛感する」ことすらしない(苦笑)。

アイロニーそして現実と地続きの起こり得る戦慄の未来の物語であるが、ロードノベルとしても楽しめるし、不思議と読後感は爽やかだ。

未来の予言の書としないためにも、一人でも多くの日本人がこの作品を手に取って欲しいとも思う。

まあ映画化されたらそれも面白そうだけど、原発がらみなんで無理かな。

続編もあるようなので、そちらも読んでみたい。

 

 

 

 

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